法隆寺金堂四天王像について
――銘記と様式を中心に
要旨:法隆寺金堂四天王像は今伝存している最古の四天王像であり、たくさんの謎に包まれている。まず、光背に見える主銘、刻銘と針書には製作当初の貴重な情報が含まれているが、製作者などに関する解釈がさまざまである。次に、様式は古風であり、後世の四天王像には見られない特徴を持つ。特に邪鬼の四体そろって肘を岩座に突き、上膊部を立てるポーズが注目される。最後に、法隆寺金堂四天王像と四天王寺金堂四天王像との関連が議論されているところである。法隆寺金堂四天王像を四天王像金堂四天王像の模作だと主張する学者が多く、それを反対する学者も少なくない。以上示した法隆寺金堂四天王像にかかわる諸問題を中心に、先学の意見を参照しながら、いささか私見を述べてみたい。
キーワード:法隆寺金堂四天王像 銘記 様式 邪鬼ポーズ、四天王寺金堂四天王像模作説
法隆寺金堂像は今伝存している最古の四天王像で特異とも言うべき存在であり、謎に包まれている。
広目天像と多聞天像の光背に銘記が刻まれている。その主銘の内容として、広目天像に「山口大口費上而次/木閈二人作也」とあり、多聞天像に「藥師德保上而/鍛師手古二人作也」とある。それが法隆寺金堂像の製作年時と製作者を考える手がかりとなったが、銘記に対する解釈がさまざまなので、製作者や製作分担などの問題に関しては諸説紛々である。
様式に関して、法隆寺金堂四天王像の様式は古風であり、後世の四天王像には見られない特徴を持っている。その中で一番注目されているのは邪鬼のポーズである。邪鬼が四体とも両手が空拳を作り、上膊部を垂直に立てているポーズを取っているのは甚だ不思議である。その何かを捧持するかのような姿勢から天王像の持物と関連があるはずだと思われるが、邪鬼が大きすぎるため、天王像の左手の戟の石突を持たせるなどは不可能である。また、左手も右手も同じ空拳を作るのも興味深い。
そのほか、四天王寺金堂四天王像の模作であるかどうかという問題を巡り、論争が繰り広げられている。四天王寺金堂四天王像は伝存していないが、仁和寺本の『別尊雑記』に「四天王寺金堂四天王像」と註してある四天王像の白描画像が存在する。それが四天王寺金堂四天王像を忠実に模写したものか、またどの程度法隆寺金堂四天王像に類似しているかは先学に議論されているところである。
以上掲げた法隆寺金堂四天王像にかかわる諸問題に関する研究はたくさんなされて来たのだが、定説がまだ成立していない。そこで、先学のなされた先行研究をいろいろ調べてみた。
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