「坂の上の雲」における司馬遼太郎の戦争観
要旨:「司馬史観」は日本小説家の司馬遼太郎の一連の作品に現れている歴史観で、その重要な構成要素として、司馬遼太郎の戦争観は近年日中学者の議論の中心となっている。司馬遼太郎の代表作品である『坂の上の雲』に描かれた二つの戦争――日清戦争と日露戦争からは、彼の戦争観も明らかに見えてくる。本稿は『坂の上の雲』における司馬遼太郎の戦争観に対する主要な観点を比較し、今まで関連研究の中における問題点を取り上げ、これからの研究趨勢を論じる。
キーワード:司馬史観 司馬遼太郎 戦争観 坂の上の雲
一、文献综述
日本近代大衆文学の代表の一人として、司馬遼太郎の歴史小説は多くの日本人に読まれ、好まれている。『坂の上の雲』は司馬遼太郎の代表作で、作品は三人の人物(秋山好古、秋山真之、正岡子規)の生涯を述べることにより、明治維新後の日本がどのように近代国家を作り上げ、列強となったのかという物語を描いた。『坂の上の雲』から生み出した司馬遼太郎の日本近代戦争観は多くの学者に議論されていると同時に、それに対する研究も主に二つの傾向に分けられている。一つは無条件に司馬遼太郎の戦争観を肯定し称賛する傾向で、もうひとつは司馬遼太郎の戦争観に疑問を出し批判する傾向だ。
司馬遼太郎作品を称賛する代表的な学者は北影雄幸や松本健一、谷沢永一、李德纯などがおり、肯定する傾向として主に以下の研究観点で示されている。一、描写手法。司馬遼太郎は鳥瞰法を運用しつつ、リアリズムに従い、主人公三人の生涯と二つの戦争の流れを客観的に観察し、物語をあるがままに描写することは、戦争や歴史に対する責任を持っている証である。二、著者本意。司馬遼太郎は『坂の上の雲』の中で、「自国の正義」を主張して「愛国心」などの「情念」を煽りつつ、「国民」を戦争に駆り立てた近代の戦争発生の仕組みを暴き、「平和」の重要性を伝えるのが彼の本当の態度だということだ。三、影響。「司馬史観」はイデオロギーを超えた自由主義史観で、敗戦後の歴史教育に大きな影響を与え、日本人に戦争を再認識させた。
反対に、司馬遼太郎作品を批判する代表的な学者は中村政則や中塚明、福井雄三、加藤周一がおり、否定する傾向として、主に以下の研究観点で示されている。一、戦争原因論。司馬遼太郎は『坂の上の雲』には、日清戦争前後、日本が朝鮮にしたこと(朝鮮王宮占領・明成王妃殺害事件)を具体的に何も描かず、又、朝鮮人はどんな目に遭ったのか、日本の侵略とどう戦ったのか、一切書かなかった。朝鮮に起きた王宮占領事件は実際、日本が日清戦争を発動するための口実であり、戦略ポイントであり、つまり本当の原因である。然し、作品中ではそれに全く触れなかったことは、司馬遼太郎が侵略戦争の理由を避けているだろう。また、司馬遼太郎は作品中で日露戦争を祖国防衛戦争と表現している。そもそも、日露戦争は日本がロシアとの利益衝突のため、先に起こした戦争で、その舞台も朝鮮・満州であり日本本土ではないので、防衛戦争とはいえないだろう。二、戦争影響論。日清戦争中、日本軍が旅順を占領し、捕虜にした清国兵や婦人子、老人を含む多くの中国人市民を大量に殺害するという事件(旅順の虐殺事件)をうやむやにした。この点では実際、司馬遼太郎はわざと侵略戦争の実質と残酷さを誤魔化そうとし、戦争責任を回避しているのではないか。また、明治の軍備拡大路線(富国強兵)をこともなげに国の近代化と言いくるめ、日清・日露戦争で軍功をとげる軍人兄弟の歩んだ道を「希望に満ちた坂道」と文学的な修辞を使って美化し、明治時代を「明るい明治」にした司馬遼太郎は、戦争の影響を全面的に把握していないのが原因で、「司馬史観」を生み出したのではないか。三、勝利原因論。司馬遼太郎は作品で、戦争に勝利した原因を敵のミスと英雄の合理冷静に帰納し、小市民や小人物に目を向けず、強いヒロイズムと修正主義をもっている。歴史は人民によりつくられているという主流である唯物史観に背いている。
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